書斎のマタタビ

「本」についての様々なことを記事にします。

紙から書物を読み解く『造本解剖図鑑』

紙の本を読むにあたって、その内容だけでなく、本それ自体をモノとして楽しむということがあります。とりわけ使用されている紙の、その見た目や肌触り、匂いなどは読書体験において大きな影響を及ぼすものだと思います。卑近な例で申しますと、名作古典やファンタジー小説の表紙が、ポリプロピレンフィルムを熱圧縮したPPコート加工でツルツルした触感だと、いまいち物語に入り込めないでしょうし、逆にSF小説ならPPコートの質感により一層クールでスタイリッシュな印象になるかもしれません。

 

そんな紙と本の関係を考える時に勉強になるのが、グラフィックデザイナーのミルキィ・イソベさん監修による『造本解剖図鑑』(ワークスコーポレーション)です。

造本解剖図鑑 紙から読み解く本づくりの極意

 この本は実際にミルキィ・イソベさんが装丁を手がけた書籍35作品を例に、そこで使用した紙の特徴や、選んだ理由などが詳細に述べられています。

 

たとえば、小谷真理さんが『攻殻機動隊』や『マトリックス』など、先鋭的なハイテクと頽廃的なゴシックの融合した作品について論じた『テクノゴシック』(集英社)のカバーでは、アルミ蒸着紙「アルグラス」を使い、硬質でメタリックな中にも有機的な艶かしさが演出されています。

宗教学、神話学の泰斗による『エリアーデ幻想小説全集』(作品社)では、紙を揉んだような風合いの「もみしぼ」系のファンシーペーパー「OKミューズガリバーもみしぼ」が、ともすれば和風の印象を持たせる「もみしぼ」の質感を巧みに利用して幻想的で神話的な、まるで洞窟のようなテクスチャーを再現するために用いられています。

澁澤龍彦や土方辰とも親交の深かった人形作家、土井典の作品集『偽少女』(論創社)では、規則正しく並んだエンボス加工とマットな手触りが、指先に吸い付くようで官能的な「五感紙」が使われています。純白に赤の箔押しというのも、無垢のようでエロティックな土井典の作品にぴったり。ちなみに同書のテクストを手がける種村季弘の展覧会「種村季弘の眼 迷宮の美術家たち」では、土井典の『凾の秘密 女の飾り凾』と『夜会へ』が展示されていますので、こちらも是非。2014年10月19日(日)まで板橋区立美術館で開催中です。

 

このほかにも「ミスターB」や「エコジャパンR」、「タントセレクト」シリーズなど定番の紙の使い方や、特殊印刷の際の注意など、かなりプロフェッショナルな内容まで充実しています。

一方で、紙の基礎知識から、製紙会社から紙見本を取り寄せる方法など、私のような素人に向けた内容も豊富で、購入当時から少し紙に詳しくなった今でも長く愛用しています。

掲載されている本は、少しカルトなものが多いのですが、『SWAN 愛蔵版』(平凡社)『愛蔵版 ぼくの地球を守って』(白泉社)などについても紹介されており、少女漫画好きにとっても嬉しくなります。

紙に詳しくなれば、ますます本のことが愛おしくなってしまいますね。

 

 

『造本解剖図鑑 紙から読み解く本づくりの極』

出版社:ワークスコーポレーション

発行年月:2008.11

ISBN:978-4-86267-040-3

造本解剖図鑑 紙から読み解く本づくりの極意

 

『偽少女』

出版社:論創社

発行年月:2003.6

ISBN:4-8460-0434-1

偽少女
偽少女

 

『SWAN 1 白鳥 愛蔵版』

出版社:平凡社

発行年月:2007.5

ISBN:978-4-582-28761-5

SWAN 1 白鳥 愛蔵版
SWAN 1 白鳥 愛蔵版