ノーベル賞受賞講演について
まもなくノーベル文学賞が発表されますね。受賞者発表もさることながら、一番楽しみなのは受賞者による記念講演かもしれません。川端康成の「美しい日本の私」を借景とした大江健三郎の「あいまいな日本の私」など、本好きとしては見逃せない話題です。とりわけ素晴らしい受賞記念講演を行った文学者といえば、ロシアの詩人ヨシフ・ブロツキーの名前が挙げられるでしょう。
その記念講演の中でブロツキーは、為政者を選び出すのに政策や業績よりも、その人の文学体験を重視すると言うのです。
ディケンズの小説をたくさん読み耽った者にとって、いかなる理想のためであれ自分と同じ人間を撃ち殺すことは、ディケンズを呼んだことのないものにとってより難しいだろうと、私は――経験からではなく、残念ながら理屈の上だけですが――考えます。
少し前の東京都政などを考えるにつけ、必ずしも読書に親しむ人が優れた政治家になるとばかりは言い切れない気もしてきますが、それにしても実に希望を与えてくれる言葉だと思います。
まったくもって短いスピーチではありますが、詩人による言葉の密度と強度には圧倒されます。群像社から沼野充義さんの翻訳で出版されたこの小さい本を、私は今後も幾度となく読み返すことでしょう。
『私人 ノーベル賞受賞講演』
ヨシフ・ブロツキイ (著), 沼野 充義 (訳)
出版社:群像社
発行年月:1996.11
ISBN:4-905821-75-4
amazonに抗して
「本」についてのブログを始めます。
電子書籍やインターネット書店はたしかに便利ですが、やはり書店をあてどなく遊歩し、紙の本のページを繰るのは楽しく、また美しいものです。
ここでは、読んだ本についてはもちろん、出版や書店、印刷や装丁など、「読書」にまつわる様々なことを書いていこうと思います。
今たまたま手許にあった、ジュンク堂書店のPR誌「書標 ほんのしるべ」2014年9月号に目を通していると、ベテラン書店員の田口久美子さんによる文章が載っておりました。
それによると、「日本では今や五冊に一冊の書籍がアマゾンで販売されている」そうです。
フランスでは全国に散らばる書店が「文化の多様性を保つ場」であるという考えのもとに、与野党こぞって書店擁護のために「反アマゾン法」を成立させたという。さらに未払いの税金(消費税等)を徴収する方針にアマゾンは従わざるを得ない、という記事も(業界紙ではあるが)確認した。
身丈に合わないタイトルにしてしまったとも思いますが、「文化の多様性を保つ場」たる書店や出版業界に少しでも寄与できれば、といった次第です。
なんだか真面目に書きましたが、普段はもう少し気楽にしていこうかなと考えています。
田口久美子さんの最新刊
『書店不屈宣言 わたしたちはへこたれない』
出版社:筑摩書房
発売日:2014/07/10
ISBN:978-4-480-81840-9